分かれ目は退職所得控除に収まるか。控除内なら一時金、退職金と重なって超えるなら年金・併用が効く
公開: 2026-06-15
iDeCo は60歳以降、貯まったお金を「一時金(まとめて)」「年金(分割で)」「その併用」のどれかで受け取ります。 どれを選ぶかで最終的な手取りが変わる、というのはよく聞く話。 ただ、3つを横並びで眺めても正直ピンと来ないと思います。私もこのシミュレーターを作るまではそうでした。
実際に何百パターンも計算させてみて分かったのは、勝負を決めているのはほぼ一点だけ、ということ。 あなたの残高(と、同じ時期に受け取る退職金)が「退職所得控除」の枠に収まるかどうかです。 ここが収まる人と超える人で、おすすめの受け取り方がきれいに分かれます。順番に見ていきます。
まず、それぞれの税金のかかり方を押さえておきます。同じお金でも、受け取る形で「どの控除を使えるか」が変わるのがミソ。
退職金と同じ「退職所得」になります。退職所得控除を引いて、残りをさらに半分にしてから課税。 控除も大きいし、超えた分も1/2しか課税されない。税制としてはかなり優遇された枠です。 控除内に収まれば税金はゼロ。
毎年の受取額が「雑所得」になり、公的年金等控除を引いて課税されます。 ここで見落としやすいのが、国の老齢年金と合算して計算される点。 iDeCo の年金だけなら控除内でも、国の年金と足すと枠を超えて課税が乗ってくることがあります。
併用は文字どおり両者の組み合わせ。一部を一時金で退職所得控除に収め、残りを年金で公的年金等控除に回す。 非課税の枠を2種類とも使えるのが併用の狙いです。なので、一時金と年金は対立する選択肢というより、枠の使い分けの問題なんですね。
一時金側の非課税枠=退職所得控除は、iDeCo の加入年数で決まります。 ざっくり、20年までは1年あたり40万円、20年を超えた分は1年あたり70万円。 たとえば加入30年なら、800万円+70万円×10年で1,500万円。これが「ここまでは一時金で受けても無税」のラインです。
年数別にいくらになるかは iDeCo退職所得控除の計算例 に細かく出しています。 ここで効いてくるのが、退職金がある会社員はこの枠を退職金と取り合うことになる、という事情。次の分岐の核心です。
まず、退職金のない(あるいは少ない)会社員でよくあるパターン。 シミュレーターに「35歳・年収500万円・月2.3万円・利回り3%想定で65歳まで」と入れると、受取時の残高は約1,340万円。 加入30年の退職所得控除は1,500万円なので、残高がまるごと控除に収まります。 一時金で受け取れば税金ゼロ。いちばん素直で、手間もかからない受け取り方です。
ここで一つ、正直に書いておきたいことがあります。 このシミュレーターで同じ条件を最適化させると、実は「年金で20年かけて受け取る」ほうが手取りが多い、という答えが出ます。 ただ、これは年金で受け取っている間も残高を運用し続ける前提(年2%想定)で計算しているからで、要は運用を続けたぶんが上乗せされているだけ。 相場次第の話なので、確実な差ではありません。
運用継続のぶんを外して税金だけで比べると(年金側の利回りを0にして計算)、年金受取は約1,204万円。 一時金の約1,340万円より130万円以上少ない。国の年金と合算されて課税されるぶん、目減りするわけです。 つまり、控除に収まる人にとっては、純粋な税の面では一時金がはっきり有利。 年金が逆転するのは「受取期間も運用を続けられたら」という条件付き、と理解しておくのが安全です。
次が、税の最適化が本当に意味を持ってくるパターン。退職金のある会社員です。 「30歳・年収700万円・月2.3万円で65歳まで、退職金2,000万円(勤続38年)を同じ年に受け取る」とします。 iDeCo の残高は約1,706万円、退職所得控除は約2,060万円。
退職金2,000万円だけなら控除2,060万円にほぼ収まります。 でも、ここに iDeCo の1,706万円を同じ年の一時金で上乗せすると、合計3,706万円。控除を1,646万円も超えて、その超過分が課税されます。 シミュレーターだと一時金まとめ受けの税は約210万円。せっかくの控除枠を一発で食い尽くしてしまう形です。
そこで iDeCo のほうを年金に回す。すると退職金2,000万円は退職所得控除にきれいに収まり、iDeCo の1,706万円は公的年金等控除のほうで受けられる。 2つの非課税枠を別々に使えるようになります。 運用継続を抜いた税金だけの比較(利回り0)でも、年金に回したほうが手取りは約23万円多い。これは運用益ではなく、純粋に控除の使い方で生まれた差です。
このケースでは、受取時期をずらして退職金と iDeCo の控除を別々にフル活用する手もあります(iDeCo を先に受けるなら10年、退職金を先なら19年あける、いわゆる10年/19年ルール)。 そのあたりは 退職金とiDeCoの受取タイミング に詳しく書きました。
年金が万能かというと、そうでもない。ここが一番おもしろいところかもしれません。 自営業の人が月6.8万円を35年間積み立てると、残高は約5,042万円まで膨らみます(利回り3%想定)。退職所得控除は1,850万円。 残高が控除を大きく超えるので、年金で分散したくなるところ。
ところが税金だけで比べると(利回り0)、一時金約4,502万円に対して、年金は約4,350万円。一時金のほうが150万円ほど多い。 理由は、残高が大きすぎて年金1年あたりの受取が約500万円にもなり、公的年金等控除110万円をはるかに超えて累進税率がぐんと上がるから。 一方の一時金は「超過分を1/2にしてから課税」という強い優遇がある。だから、桁が大きいときは一時金の1/2課税のほうが勝つことがあるんです。
「残高が大きい=年金で分けたほうが得」と思い込むと、ここで読み違える。 実際には、一部を一時金で控除を使い切り、残りを年金で公的年金等控除に乗せる併用がちょうどいい着地になることが多い。 どの割合が最適かは残高・退職金・国の年金額しだいなので、手で計算するのはしんどいところです。
年金受取の手取りを左右するもう一つの要素が、国からもらう老齢年金の額です。 iDeCo の年金は、この公的年金と合算してから公的年金等控除を引いて課税されます。 なので、もともと厚生年金がしっかりある人(現役時代の年収が高かった会社員など)は、iDeCo の年金を足すと枠をすぐ超えて、年金部分の税負担が重くなりやすい。
こういう人は、iDeCo は一時金(退職所得控除)で受けてしまって、年金の枠は国の年金に温存する、という発想が効いてきます。 逆に自営業のように国の年金が基礎年金だけ(年80万円弱)の人は、公的年金等控除に余裕があるぶん、年金受取の余地が大きい。 同じ「年金で受け取る」でも、現役時代の働き方で向き不向きが変わるわけです。
最後に、このサイトの数字の読み方について。 受取最適化モードは、年金で受け取っている期間中も残高を運用し続ける前提で手取りを計算しています。 だから結果は年金・長めの年数に寄りやすい。ケース①で年金が一時金を逆転したのも、これが理由でした。
運用を続けられるなら、それは現実的な上乗せです。ただ相場次第なので、約束された差ではない。 確実にコントロールできるのは税金の枠の使い方のほう。退職所得控除と公的年金等控除という2つの非課税枠を、退職金や国の年金とぶつけないように配分する——ここが受け取り方の本質だと思っています。 運用益の見込みは、その上に乗るボーナスくらいに捉えておくのが、私の感覚では一番ぶれません。
自分の残高・退職金・年収を入れれば、一時金/年金/併用のどれが手取り最大か、年金なら何年がいいかまで1分で出ます。 まずは控除に収まるのか超えるのか、そこだけでも確かめてみてください。
この記事は MoneyTools Lab(iDeCo 最適受取シミュレーター運営)が執筆・公開しています。 運営者は税理士・ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士等の有資格者ではありません。本記事の内容は参考情報としてお読みいただき、具体的な税務判断・資産運用のご相談は専門家へお問い合わせください。
本記事の計算・解説は、以下の一次情報(公的機関の公式ページ)に基づいています。
あなたの年齢・職業・年収を入力するだけで、最適な受取方法と節税額がわかります。