受取を遅らせると資産は伸びる。でも退職所得控除は増えない——年齢別の実測と判断軸
公開: 2026-05-30
iDeCoの話題は「いくら積み立てるか」に集中しがちですが、受け取り方を調べ始めて意外だったのが、 受取を開始する年齢を 60〜75 歳の範囲で自分で決められるという点でした。 60歳になった瞬間に受け取らなければいけないわけではありません。
受取開始を遅らせると、その間も口座の中で運用が続きます(拠出はやめても「運用指図者」として運用だけ継続できる)。 だったら遅らせるほど得なのか、というと、そう単純でもない。控除のルールと、退職金・公的年金との兼ね合いが絡んできます。
この記事では、当サイトのシミュレーター実測値で「受取開始年齢を変えると資産がどれだけ動くか」を見たあと、 「何歳から受け取るのが得か」を決めるための判断軸を整理します。
まず素直に「遅らせると増える分」から。35歳・年収550万・会社員(企業年金なし)が 月23,000円を60歳まで積み立て、その後は運用指図者として年3%で運用を続けた前提です。 受取開始年齢ごとの「受取時点の資産額」を当サイトのシミュレーターで実測しました。
| 受取開始年齢 | 受取時点の資産 | 60歳受取との差 |
|---|---|---|
| 60歳 | 約1,026万円 | — |
| 65歳 | 約1,192万円 | +約166万円 |
| 70歳 | 約1,384万円 | +約358万円 |
| 75歳 | 約1,608万円 | +約582万円 |
60歳で受け取らず75歳まで待つと、同じ元本でも資産は約582万円増える計算。 積立をやめたあとの「運用だけの15年」が、これだけの差を生みます。 複利は終盤ほど効くので、後半の伸びが大きいのが表からも分かります。
※ シミュレーター実測値(35歳開始・月23,000円・60歳まで積立・年3%運用継続・扶養なし)。 利回りが1%なら差はもっと小さく、5%ならもっと大きくなります。運用なので増える保証はありません。
ここが受取開始年齢を考えるうえで一番大事なところ。 iDeCoを一時金で受け取るときの退職所得控除は、運用していた年数ではなく「掛金を出していた加入年数」で決まります。 受取を遅らせて運用指図者でいた期間は、控除年数に加算されません。
上のケースは35歳から60歳まで25年加入なので、退職所得控除は 800万円 + 70万円 ×(25−20)= 1,150万円。 これは60歳で受け取っても75歳で受け取っても1,150万円のまま、増えません。
つまり「待てば控除も増える」わけではない。 待って資産が控除額(1,150万円)を超えると、超えた分が課税対象になります。 上のケースだと70歳(約1,384万円)や75歳(約1,608万円)では資産が控除を上回るので、 一時金だけで受け取ると超過分に税がかかる構図です。 控除額がどう決まるかは iDeCo退職所得控除の計算例 に年数別でまとめています。
ではどうするか。資産が控除を超える場合は、一時金と年金受取を組み合わせて、超過分を公的年金等控除の枠に逃がすのが定石です。 当サイトの最適化では、75歳受取のケースでも約29%を年金で受け取る形にすると、税をほぼ抑えて手取りを資産額とほぼ同じに保てました。 このあたりの一時金・年金・併用の最適な配分は、本サイトのシミュレーターが自動で計算します。
「運用で増えるなら遅らせる一択」とならない理由が、ここから先の4つです。
① 公的年金(原則65歳〜)との重なり
iDeCoを年金形式で受け取ると公的年金等控除を使えますが、その枠は公的年金と共用です。 65歳から国民年金・厚生年金を受け取り始めると、その上にiDeCoの年金を乗せた分は控除枠からはみ出して課税されやすくなります。 iDeCoを年金で受けたいなら「公的年金が始まる前(60〜64歳)に短期間で受け取り切る」か、 一時金中心に切り替えるか、という設計が要ります。
② 退職金との受取年(5年・19年ルール)
会社の退職金とiDeCoの一時金を近い年に受け取ると、退職所得控除を取り合って手取りが減ります。 退職金を先に受け取った場合、iDeCoはそこから一定年数あけて受け取ると控除をフルに使えます。 勤め先の退職金がいつ出るかで、iDeCoの受取開始年齢を逆算するのが有効。 この重なりの調整は 退職金とiDeCoの受取タイミング で具体的に書いています。
③ 受取まで口座管理手数料がかかり続ける
運用指図者でいる間も、口座管理手数料(運営管理機関により月数十円〜600円程度)は毎月引かれます。 年3%で運用できていれば手数料は十分まかなえますが、元本確保型(定期預金など)で寝かせて待つと、 手数料のほうが利息を上回ってじわじわ目減りすることもある。遅らせるなら運用は続ける前提です。
④ そのお金を使えない期間が延びる
当然ですが、受取開始を遅らせるほど「引き出せない期間」が延びます。 60代前半に使う予定があるお金なら、無理に遅らせる意味はありません。 生活に必要な分は早めに受け取り、当面使わない分だけ運用を続ける、という分け方もできます。
一律の正解はなく、退職金と公的年金の状況で変わります。タイプ別のざっくりした考え方はこうです。
退職金が多い人:退職金で退職所得控除を使い切りやすいので、iDeCoは年数をあけて(退職金受取の数年後に)受け取ると控除を取り戻せる。受取開始を後ろにずらす価値あり
退職金が少ない/ない人:iDeCo単独なら控除に余裕があるので、60〜65歳での一時金受取がシンプル。運用に自信があるなら遅らせて資産を伸ばす選択も
60代も働く予定の人:給与や公的年金と重なると課税されやすい。収入が下がる年を狙って受け取ると税効率がいい
数字で迷ったら、当サイトの受取開始年齢の比較ツールが早道です。 退職金・公的年金・運用方針を入れると、60〜75歳の受取開始年齢ごとに手取りを自動計算して並べてくれます。 50代の損益分岐も気になるなら 50代からでも遅くない?iDeCoの損益分岐点 も合わせてどうぞ。
この記事は MoneyTools Lab(iDeCo 最適受取シミュレーター運営)が執筆・公開しています。 運営者は税理士・ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士等の有資格者ではありません。本記事の内容は参考情報としてお読みいただき、具体的な税務判断・資産運用のご相談は専門家へお問い合わせください。
本記事の計算・解説は、以下の一次情報(公的機関の公式ページ)に基づいています。
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