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退職金とiDeCoの受取タイミング

税額が数百万円変わる例

公開: 2026-04-20 / 最終更新: 2026-05-30

「同じ手取りになるか」は、受け取る順番と間隔で決まる

退職金とiDeCoの両方を受け取る人は、受取年をどう組むかで手取りが100万円前後変わる場面があります。 記事を書く前、私は「数百万円単位で変わる」という説明をよく見かけて、本当だろうかと疑っていました。実際に税法のルールに当てはめて計算してみると、差が出るパターンと出ないパターンがはっきり分かれます。

鍵になるのは、退職所得控除の重複排除に関する2つの期間ルール。一般に「5年ルール」「19年ルール」と呼ばれるもので、受け取る順番によって必要な間隔が違うのが厄介な構造です。

この記事では、ルールの非対称性をまず整理してから、「現実的に手取りが変わるのはどのパターンか」を実例で見ていきます。

5年ルールと19年ルール(非対称な理由)

退職所得控除は、勤続年数(iDeCoは加入年数)に応じて段階的に増える控除枠です。同年に2つの退職所得を受け取ると、勤続期間の重複分が控除から差し引かれて、合算した1回の退職所得控除になる仕組み。

年をずらせば独立した控除になる、というのが税法の建付けです。ただし、必要な間隔が順番で違います。

iDeCo を先に受け取り、退職金を後に受け取る場合 → 5年ルール

iDeCoの一時金受取から退職金受取までが5年以内なら、退職金側の控除計算で勤続期間の重複が除外されます。 5年を超えてあければ、退職金側で控除をフル計算できます。

退職金を先に受け取り、iDeCo を後に受け取る場合 → 19年ルール

退職金の受取からiDeCoの一時金受取までが19年以内なら、iDeCo側の控除計算で重複が除外されます。 20年を超えてあければ、iDeCo側で控除をフル計算できる。

※ 19年ルールは2022年改正で「14年以内 → 19年以内」に延長されました。 退職金を先に受け取って、iDeCoで控除独立を狙う節税スキームを抑える狙いと言われています。

ここで気をつけたいのが、「退職金 → iDeCo」で19年あけるのは制度上ほぼ不可能という点。 60歳で退職金を受け取った後にiDeCoを20年あけて受け取ろうとすると、80歳になります。iDeCoの受取上限は75歳なので、最大15年しかあけられません。 「退職金が先」のパターンでは、19年ルールの窓に必ず入る、というのが現実です。 なお、iDeCoは60〜75歳の範囲で受取開始年齢を自分で選べます。年齢ごとの手取りの違いは iDeCoの受取開始年齢は60〜75歳のどれがいい? で実測しています。

退職所得控除そのものの計算式と、勤続年数ごとの控除額(800 万、1,500 万、2,690 万…)の具体は 退職所得控除の計算例 に整理しました。 この記事を読む前に控除の感覚を掴んでおきたければ、先にそちらを見てもらうと、以下の数字が腑に落ちやすくなります。

主軸ケース: 退職金2,000万 + iDeCo 1,500万

数字を入れて見ます。条件は次の通り。

パターンA: 60歳で退職金、69歳でiDeCo(よくある形)

退職金受取(60歳)から iDeCo 受取(69歳)まで9年。19年ルール窓内なので、iDeCo側の控除計算で勤続期間の重複が調整されます。

項目計算
合算勤続年数29 + 38 − 20 = 47年
退職所得控除(合算)800万 + 70万 × (47−20) = 2,690万円
合計受取額2,000 + 1,500 = 3,500万円
課税対象(控除後 × 1/2)(3,500 − 2,690) × 1/2 = 405万円
税額(所得税20%帯 + 住民税10%)概算 約81万円

※ iDeCo 残高は 60→69歳の9年で運用が継続するので、実際は 1,500万 → 約 1,956万に増えます(年利3%想定)。 上記は単純化のため残高固定で示しました。本シミュレーターは運用継続分も含めて計算します。

パターンB: iDeCo を先に60歳で受取、退職金を66歳以降で受取(独立控除)

iDeCo を60歳で一時金として受け取り、退職金を66歳以降に受け取ると、5年ルールの窓外。退職所得控除がそれぞれ独立計算になります。 想定としては「定年後に再雇用 or 別企業で6年以上勤務し、退職金を後ろに繰り延べる」というやや特殊なパターン。

項目計算
iDeCoの控除40万 × 20 + 70万 × 9 = 1,430万円
退職金の控除800万 + 70万 × (38−20) = 2,060万円
合計控除1,430 + 2,060 = 3,490万円
合計受取額2,000 + 1,500 = 3,500万円
課税対象(控除後 × 1/2)(3,500 − 3,490) × 1/2 = 5万円
税額概算 1〜2万円

パターンA の税額 約81万円に対して、パターンB は約1〜2万円。差は概算 80万円です。 「数百万単位で変わる」というよりは、「100万円前後動く可能性がある」が現実的な相場感。

ただし、パターンB を実行するには iDeCo を先に60歳一時金で受け取り、その後5年以上を空けて退職金を受け取れる職務環境(再雇用後の二段階退職、別企業への転籍など)が必要です。 多くの会社員にはハードルが高く、現実にはパターンA がデフォルトになります。

同年受取と「ずらし」の損得(運用継続分まで含めて)

「同年受取」と「数年ずらし」の比較も見ておきます。退職金は60歳で固定。iDeCo の受取年だけ動かします。

iDeCo 受取年 退職金からの差 適用ルール 退職所得控除 iDeCo 残高(年利3%)
60歳同年合算(重複あり)2,690万円1,500万円
65歳5年差19年ルール窓内2,690万円約1,738万円
69歳9年差19年ルール窓内2,690万円約1,956万円
75歳15年差19年ルール窓内(限界)2,690万円約2,335万円

注目したいのは、退職金が先のケースでは「ずらしても控除額は変わらない」点。 19年ルールの窓内(最大15年)は控除合算が続くので、ずらすメリットは iDeCo の運用継続による残高増です。 残高が増える分、課税対象も増えるので、税額は単純に下がりません。手取りで見ると、年利3%なら受取繰下げに少し得がある程度です。

「年金として受け取る」選択肢も合わせて検討すると、出口戦略の幅が広がります。本シミュレーターは一時金・年金・併用の自動最適化に対応しているので、自分の条件で計算してみるのが早道です。

本シミュレーター実測値で見直す(運用継続込み + 年収帯比較)

ここまでの「パターンA 約81万円・パターンB 1〜2万円」という数字は、残高を1,500万円で固定した教科書的な概算です。実際には iDeCo 残高は受取まで運用が続き、年収によって拠出期の節税額も変わります。本サイトのシミュレーターで運用継続込みの実測値を出してみました。

私自身は会社員として iDeCo を 5 年運用していて、まだ受取期は先ですが、 「同じ残高でも受取年がずれるだけで税額が変わる」という感覚を、 シミュレーターを書く過程で何度も目にしてきました (運営者の iDeCo 運用体験談 に経緯を書きました)。 残高固定の手計算と、運用継続込みの実測値で、どれくらい数字が動くか見てください。

運用継続込みのパターンA・パターンB(本シミュレーター実測)

条件は記事冒頭と同じ。退職金 2,000万円、iDeCo 60歳時点 1,500万円、年利3%で運用継続、会社員(年収700万円帯)。

パターンiDeCo受取時残高合計受取額税額(実測)
A: 60歳退職金 + 69歳iDeCo(合算控除)1,957万円3,957万円約176万円
B: 60歳iDeCo + 66歳退職金(独立控除)1,500万円3,500万円約63万円

差は約113万円。「100万円前後動く可能性がある」という見立ては実測でも概ね合っていますが、運用継続分(60→69歳で +457万円)が課税対象に乗ることで、パターンAの税額が概算の約81万円より大きく出ます(実測では約176万円)。「ずらしのメリット」を計算する時は、運用継続による残高増まで織り込んだほうが現実に近いです。

※ シミュレーターは退職所得控除の重複期間調整、合算課税、復興特別所得税までを反映した精密計算。記事冒頭の手計算(概算81万円 vs 1〜2万円)は単純化したモデルとして読んでください。

年収帯別の節税効果(拠出期 + 受取期)

退職金もiDeCoも一時金で受け取る場合、税金は分離課税。したがって退職時の税額は年収に左右されません(年収500万でも1,000万でも、上の表と同じく約176万円・約63万円)。年収帯による差は、拠出期の所得控除(毎年の節税)で出てきます。

40歳から月23,000円・年利3%・29年積立(iDeCo 69歳残高 約1,274万円)で計算した、拠出期累計の節税です:

年収所得税率の目安29年累計拠出29年累計節税(実測)
500万円10%800万円約149万円
700万円20%800万円約232万円
1,000万円20〜33%800万円約243万円

年収500万 → 1,000万 で節税額が約100万円増えます。受取時の税額は同じでも、拠出期の節税で100万円近い差が出ることは知っておく価値があります。年収帯別の節税額の詳細は 年収別 iDeCoの節税額早見表 でも整理しています。

※ 月23,000円・29年積立・年利3% のケースでは iDeCo 69歳残高は約1,274万円。記事冒頭の「1,500万円」は教科書的な仮定値で、実際にこの残高に到達するには月46,000円程度の積立が必要です(会社員上限62,000円内で実現可能)。

本シミュレーターの対応範囲

注意点

執筆・運営

この記事は MoneyTools Lab(iDeCo 最適受取シミュレーター運営)が執筆・公開しています。 運営者は税理士・ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士等の有資格者ではありません。本記事の内容は参考情報としてお読みいただき、具体的な税務判断・資産運用のご相談は専門家へお問い合わせください。

運営者情報・お問い合わせ

制度根拠・出典(一次情報)

本記事の計算・解説は、以下の一次情報(公的機関の公式ページ)に基づいています。

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